バイロイト音楽祭2010 生中継:《ワルキューレ》 |
◆ワーグナー作曲:楽劇《ワルキューレ》全3幕
現代の聴衆がワープするように、神々の時代と交錯している。
第1幕のフンディングの家には、嵐で倒されたのか電柱が横倒しになっている。
ノートンはその電柱に突き刺さっている。
聴衆の一人が登場人物の被いをとると、ジークリンデである。そこから楽劇が始まる。
フンディングはヨン・クワンチュル(韓国人)。声量は負けてはいないが、演技をやたらと顔面でするのが目立つ。
第2幕。藤村フリッカの歌唱力はダントツでは。声が通る。演技としてもフリッカの役柄に相応しく凜としている。
演出は具象的であり分かりやすい。たとえば、第2幕ウォータンが世界の終末を暗示するシーン。ウォータンを支える巨石が回転すると傷ついた人物の顔が現れる。ちょっとデジャブ感のある――「猿の惑星」のエンディングか、ショッキングな場面。
背景は、暗くてよく分からないが、人がうごめき混沌としている。戦場のようでもある。
バイロイト祝祭管弦楽団は何度聞いても素晴らしい演奏である。
燦然とした金管楽器群の響きなど、ワーグナーの楽劇に欠くことはできない。
弦の合奏ぶりも共感にあふれている。
《ワルキューレ》の終幕、ウォータンとブリュンヒルデの別れの場面。ブリュンヒルデををサポートするオーボエなど、心に迫ってくる。
ティーレマンは、息の長いフレーズを引っ張る。オケがうねる。ミエを切るように思いっきりタメをとるのだった。
それにしても、ジークムント、ジークリンデ、ブリュンヒルデといったヘルデン歌手がいずれも巨躯の持ち主であるのは何とかならないのかと思う。
アジア勢のヨン・クワンチュル(韓国)、藤村実穂子はいずれもスマートなもの。
終演後のカーテンコール。ジークムントのヨハン・ボータへの拍手が多かったかな。
わが藤村実穂子にもかなりの拍手があったので一安心。
何と言っても一番盛大なのは、指揮者ティーレマンへのもの。すごい人気だ。
幕間の1時間ほどには、バイロイトの街の様子などが紹介された。
なかでも、祝祭歌劇場の舞台裏の様子を撮影した場面などは興味津々。食い入るように見つめてしまった。オケピットは舞台の下を地下に向かって掘り下げられているようである。弦は聴衆にむかって手前に金管群は後方へ配置されるとのことだ。
【出演】
ジークムント:ヨハン・ボータ
フンディング:ヨン・クワンチュル
ウォータン:アルベルト・ドーメン
ジークリンデ:エディット・ハラー
ブリュンヒルデ:リンダ・ワトソン
フリッカ:藤村実穂子
管弦楽:バイロイト祝祭管弦楽団
指揮:クリスティアン・ティーレマン
演出:タンクレート・ドルスト
バイロイト祝祭劇場(ドイツ)