松本竣介展 生誕100年 |
小田急の千歳船橋から向かった。バス停を探すのに手間取ってしまったが。砧公園の紅葉をくぐり抜けると世田谷美術館だった。この美術館に入館したのは初めて。なかなか構造的に複雑――立体的に工夫をこらしたアイデアが潜んでいるようである。展示室の配置が曲折しているのか先を見通せない仕掛け。突然新しいコーナーが出現するような驚きを演出しているようである。部屋にも大小がありリズムをつけているのかな。建築家内井昭蔵の設計とのことだ。
松本竣介展は第1会場、第2会場とに分かれ、デッサンなども含めて、多くの作品が展示されている。生誕100年記念で全国から作品をあつめたとのことだ。《立てる像》は神奈川県立近代美術館の所蔵だったはず。ぎっしり展示された作品にはさすがに見応えがあった。松本竣介は36歳で夭逝した。短い生涯のなかで画風が大きく変遷していることがわかる。
初期作品では、《郊外》(1937)が印象的であった。青を基調として緑の木々が町をつつんでいる。家々はエッジング風に描き出されている。ちょっと日本の郊外とは思えない景色である。バランスの良い安定した構図だなと感じる。明暗の対比が素晴らしい、中央に建つベージュ色の家には明るい光が当たっている――朝日が差し込んでいるようにも見える。黒く細い輪郭線でくっきりと描き出している。
やはり《立てる像》(1942)は代表作としての重みがある。物理的にも等身大の大作である。自画像であることは明らか。どこか遠くを見つめる視線に引き込まれる。さげた両手は何か意志的な表示なのか。いつもの松本竣介好みの工場・煙突が遠くに見える。時代的背景がにじんでいるのか――この絵は1942(昭和17)年に描かれた。太平洋戦争に突入して、すでに2年が経過し戦況も初戦の勢いを失い厭戦気分も。
↓チケットに印刷されているのは《Y市の橋》(1943)。後期の代表作か。落ち着いた静謐な雰囲気が画面から醸し出される。Y市とは横浜らしい。