高島俊男『座右の名文 ぼくの好きな十人の文章家』 |
その後、どういう経過があったのか、インターネットのWeb草思というサイトに「新・お言葉ですが」のコーナーが新設された。
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もう10回にはなっているようで、毎回楽しみに拝読していたのだが。
先頃、このコーナーを訪れると、休載の案内があるではないか。
おわびが載っている。
「筆者現在心神状態甚だ不振につき、この連載しばらくお休みさせていただきます。勝手の段深くおわび申しあげます」とある。どうも理由がはっきりしないが、体調不良ではないようだ。
高島俊男さんの近刊は『座右の名文』を読んだばかりである。ぼくの好きな十人の文章家という副題が付いている。
とりあげているのは、新井白石、本居宣長、森鴎外、内藤湖南、夏目漱石、幸田露伴、津田左右吉、柳田國男、寺田寅彦、斎藤茂吉の十人である。みな学者である。学問の根底ある人の書いたものはおもしろい。よほどの天才は別にして、学問のない者の文章は底が浅くてあきがくると言う。
十人それぞれを一言で描写するキーワードが鋭いものだ。
たとえばこうである。
新井白石は「自分の優秀さをみずから書きのこした大秀才」、
森鴎外は「満点パパと冷徹な創作家と」、夏目漱石は「 『坊ちゃん』は探偵・恋愛小説である」とある。
寺田寅彦については、「仙骨」を帯びた漱石門下の異才。仙骨とはいわば、仙人の風があるということらしい。おそろしく間口のひろい人だったとある。物理学、音楽、絵画、写真、映画、俳諧……と。
こんな戯歌が引いてあるのがおもしろい、「好きなもの 苺 珈琲 花 美人 懐手して宇宙見物」
◆『座右の名文 ぼくの好きな十人の文章家』高島俊男、文春新書、2007/5