『リヒテルは語る』 |
リヒテルは本書の中で「だ・である調」で闊達に語り、著者ユーリー・ボリソフを「君」として扱っている。訳者・宮澤淳一さんは、親密さの人称表現に意を尽くしたようだ。教養と愛情とユーモアに満ちたリヒテルが、ボリソフを「あなた」と呼びかけることはどうしても許すことができなかったのだ。
こんなエピソードも出てきた ――リヒテルは、あるピアニストと、どちらが鼻で弾くのがうまいか、勝負をさせられたそうだ。曲はモーツァルトのイ長調ソナタ(K331「トルコ行進曲つき」)の冒頭。棒立ちになり、左手で伴奏を、鼻で旋律を弾いた。「倍の遅さで、しかも間違いだらけでね!勝つには勝ったが、モーツァルトが相手だったら負けていただろうね」と。
それに、リヒテルが古今東西の有名曲について――ピアノ曲以外にも、独特の見解を吐露しているのが、なにより興味深い。スターリン時代の暗い影も見える。
こんな様子だ……
▽ブラームスのバラード。私はあれを葬儀のたびに弾いているのだ!みんなあれであの世に送った。スターリンも、カチャーロフも、クニッペル=チェーホワも、ユージナも、スタニスラフ・ネイガウスも……。
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