美術史家・若桑みどりさんの訃報を聞いた |
若桑みどりさんの名前を知ったのは、NHKブックスから出ている『絵画を読む』を読んでからだ。何気なく見える絵画にも、ルールに従って、メッセージが隠れていることを教えてくれた。副題には「イコロジー入門」とあった。とても啓発的かつユニークなな著作であった。
もちろん大冊『クアトロ・ラガッツィ――天正少年使節と世界帝国』も読んだ。
日本、イタリア、スペインをまたがりスケールが大きい。
とても女性とは思えない旺盛な筆力である――このような表現は、著者をいちばん怒らせそうだが。
つい先日も、古い岩波新書――『女性画家列伝』(1985第1刷)を読んだばかりである。
12人の女性芸術家を評論したもの。
ふつうの評伝のような伝記的要素はひかえて、
もっぱら作品を通して芸術家の本質をえぐるという点に絞ったという。
もちろん、女性芸術家を描く著者の筆は的確なのであるが、
この本には、なぜか著者・若桑みどりが自らの生き方を重ねて強く書き込んでいるのに気づく。
例えば、こんな文章が、挟まれているのである。
……女たちの歴史を語るときに、歴史家として、と同じほど私自身を語っているような気持ちにならされる。
私もまた、それなりに、男性中心の社会のなかで、じつにみじめなたたかいと屈辱をくりかえしながら、自分の職業を続け、一人で食べてきた女の一人であるから、……
父は学者であったという。不遇な環境の中で著者が画家になることに生涯の夢を託していたそうだ。